運動方程式と束縛条件 で「何が運動を決めるか」を、数値積分とは何か で「それを時間で追って解く」話を書いた。今日はその先 ── 時間を追わなくても、始点と終点だけで答えが出ることがある という近道の話。それが「エネルギー」という考え方だよ。
½mv² は公式じゃなくて、出てくるもの
運動エネルギー や位置エネルギー を、最初から公式として覚えてしまうと、なぜそうなるのかが見えなくなる。本当はこれらは、運動方程式から自然に「出てくる」量なんだ。順番に導いてみよう。
出発点はいつもどおり運動方程式。質量 の物体が、位置 によって変わる力 を受けて直線上を動いているとする(ばねの単振動みたいな状況だね)。
力学の目的は、この式から位置と速度を確定すること。位置を知るには、要するにこれを時間で2回積分すればいい。じゃあ、まず 1回だけ 積分してみよう。両辺に を掛けて、ある区間で足し合わせる:
右辺は と書き換えて時間の積分に直すと、きれいに積めて、
になる。左辺を 仕事 、右辺の各項を 運動エネルギー と呼ぶことにすると、
これが 仕事・エネルギー定理。 は、運動方程式を1回積分したときに出てくる「速さで決まる量」として定義された、ただそれだけのものなんだ。
仕事を一般に
( は力と運動の向きのなす角)と定義しておけば、された仕事の分だけ運動エネルギーが増える ── この一文で、力がからむ多くの問題が解けるようになる。
積分 は、つまり 力のグラフの下の面積 のこと。下のスライダーを動かす(自動再生でもいい)と、上の物理がエネルギーを溜め、下のグラフの面積が同じだけ伸びるのが見える。面白いのは、これが力学だけの話じゃないこと ── シナリオを「物を押す/ばね/コンデンサ/気体」と切り替えると、コンデンサのエネルギー も、気体がする仕事 も、まったく同じ「曲線の下の面積」だと分かる。力×距離・電圧×電荷・圧力×体積 ── 共役な2量の積がエネルギー。積分という一点で、力学・電磁気・熱がつながっているんだ。
例:ばねと重力
ばね:自然長からの伸びを とすると力は 。 から まで伸びるあいだに物体がされる仕事は
この分だけ運動エネルギーが変わるから 。
重力: だけ落ちるあいだ、下向きに を受けるから 。やはり となる。
どちらも「力を距離で積分する → 運動エネルギーの変化」という同じ手順だけで出ている。公式を3つ覚える話じゃないんだ。
位置エネルギー:仕事を「位置の関数」に押し込む
ばねや重力の仕事をよく見ると、面白いことに気づく。仕事が 始点と終点の位置だけ で決まっていて、途中の経路によらない。こういう力を 保存力 と呼ぶ。
保存力なら、その仕事を「位置で決まる量」の差として書ける。基準点 をとって、
と定義したものが 位置エネルギー。マイナスが付いているのが大事で、「位置エネルギーの増加 = −(保存力のした仕事)」という約束だよ。
実際にばねでやると、物体がされる仕事 から
重力なら同じ手順で 。よく使うものをまとめておくと、
- 重力(一様):
- 万有引力(無限遠基準):
- ばね:( は自然長)
- 電場:( は電位)
逆に、位置エネルギーが分かれば力は微分で戻せる:
このマイナスは「力は が下がる向きに働く」という意味。地形の傾きを下る向きに押される、と思えばいい。下のラボで、谷の斜面に向かって粒子が押されるのがまさにこれだよ。
力学的エネルギー保存則
運動エネルギーの変化は、保存力の仕事でも非保存力の仕事でも起こる:
ここで保存力の仕事を位置エネルギーで置き換える(保存力の仕事 )と、
そして 非保存力が仕事をしない とき、右辺はゼロ。つまり
運動エネルギーと位置エネルギーの和 ── これを 力学的エネルギー と呼ぶ ── が保存する。これが力学的エネルギー保存則だね。逆に摩擦のような非保存力が働くなら、
となって、和は保たれない。失われた分は熱などに変わったと考える。
高校範囲では、保存力は重力・万有引力・ばね・電荷にかかる電場の4つだけと思っておいて差し支えないよ。摩擦のように熱を伴う力は、仕事が経路に依存するので非保存力だ。
和が一定なのは、微分で1行で分かる
「和が変わらない」ことは、 を時間で微分すればすぐ見える。
運動方程式 と保存力 を入れると、ちょうど打ち消し合ってゼロになる。だから は時間によらず一定 ── これが保存則の正体だね。非保存力があるときは にその分が残って、 になる。和が減るのはこの項のせいだよ。
入れ替わっても、和は同じ高さ
運動エネルギー と位置エネルギー は、運動のあいだ絶えず入れ替わる。でも保存力だけなら、その和はいつも同じ高さ に届く。折り返し点ではすべてが ()、最下点ではすべてが ()、途中はその中間 ── どの瞬間も合計は変わらない。
エネルギー地形ラボ
言葉より、動かすほうが早い。ポテンシャル の谷を粒子が動く様子を見てみよう。粒子の高さが位置エネルギー、全エネルギー の線との隙間が運動エネルギー(=速さ)になる。 になる 折り返し点 で運動エネルギーが になり、向きが反転するのが見えるはず。
ボールの位置には、青()の上に緑()を積んだバーが立っていて、ちょうど の線まで届く。下の帯グラフは、その内訳を時間に沿って並べたもの。摩擦(非保存力)を にしておくと、 と が入れ替わっても 帯の上端=和はまっすぐ一定 のまま ── これが保存だよ。摩擦を上げると上端が少しずつ下がって、最後は谷底で静止する。これが「力学的エネルギーの変化=非保存力の仕事」のほう。ばね・振り子・二重井戸で地形を切り替えて試してみて。
解き方の手順
エネルギーで解く問題は、だいたいこの流れで通る。
- 変化の前と後、それぞれの図を描く。各状態で「運動エネルギー」と「位置エネルギー」を求める。
- その和(力学的エネルギー)を出す。
- 非保存力(摩擦など)があれば、その仕事の分だけ力学的エネルギーが変わる。非弾性衝突でも減る。
- 非保存力がなければ力学的エネルギーは保存。前後で等しいと置いて式を立てる。
例題:荒い床から滑らかな斜面へ
荒い水平面の上に、なめらかな斜面を持つ動かない台 が置いてある。質量 の小物体 が、台から距離 だけ離れた位置から初速 で台へ向かう。床と の動摩擦係数を とし、台は床に対して動かないとして、 が台上で達する最高点の高さ を求めよう。
状態を追っていく。
- 状態1(出発):運動エネルギー 、位置エネルギー 。
- 状態2(台に乗る直前):荒い床を距離 進むあいだ、摩擦から の仕事をされる(運動の向きと摩擦が逆向きなので負)。
- 状態3(最高点):速さ なので運動エネルギー 、高さ で位置エネルギー 。
状態2→3は斜面がなめらかなので保存力(重力)だけ。だから状態1→3で力学的エネルギーを変えるのは、床の摩擦の仕事 だけだ。「力学的エネルギーの変化=非保存力の仕事」を状態1と状態3に直接あてはめると、
整理して、
途中の状態2を経由しなくても、始点と終点だけで答えが出た。これが「時間を追わない近道」の威力だね。もし (摩擦なし)なら ── ちょうど運動エネルギーが全部高さに化けた形になる。
まとめ:エネルギーは「時間を消した運動方程式」
エネルギーの考え方は、運動方程式を一度積分して時間 を消したものだ、と見るとすっきりする。時間での細かい振る舞いを追う代わりに、始点と終点の「速さ」と「位置」だけで帳尻が合う。だから途中経過を知らなくても答えが出る。
もちろん、時間ごとの運動そのものを知りたいときは 数値積分 のように方程式を時間で解くことになる。エネルギーは、その手前で「結果だけ」を素早く言い当てるための強力な近道なんだ。
補足:位置エネルギーを微分すると力に戻る()という関係は、ラボの「地形の傾き=力」としてそのまま見える。谷が深いほど傾きが急で、強く引き戻される ── ばねの が放物線、万有引力の が井戸になっているのも、力の形の裏返しだよ。