物理を習うと、力学・波動・電磁気・熱…と、分野ごとに章が分かれている。あの分け方は、教えやすさのための 縫い目 だと思う。便利だし、理由も分かる。でも時々、その縫い目を一本ほどいて「ほんとうは地続きだ」と確かめると、すごく気持ちがいい。
この回はそれをやる。これまで 力学 と 波動 を別々に積んできたけれど ── 波は、いちばん素朴な力学()から、自然に生まれてくる。その瞬間を見よう。
① ばね玉の鎖に、ただ を立てる
舞台は単純だ。同じ質量 の玉を横一列に並べ、隣どうしを同じばね(ばね定数 )で繋ぐ。両端は壁に固定。各玉は、真上・真下(横向きのずれ )にだけ動けるとする。
番目の玉に働く力を考える。右の隣 との段差で だけ引かれ、左の隣 との段差で だけ引き戻される。足すと、その玉の運動方程式は
それだけ。特別なことは何もない、ただの を玉の数だけ並べただけだ。右辺の は「自分が、左右の平均からどれだけ出っ張っているか」を測っている。出っ張っていれば引き戻される ── ごく素朴な話。
ひとつ、おまけの正直な補足。横ずれ に対するばねの戻し力を と書いたけれど、これは ずれが小さいときの近似 だ。本当は玉が斜めにずれると、ばねの向きや伸びは角度のぶん複雑になる。でも が玉の間隔より十分小さければ、戻し力はこの「差に比例」でよく合う ── 力学でいう “線形化”、便利でよく使う一手だよ。
下で「弾く」を押すと、真ん中の玉をつまんで離す。あとは各玉が上の式に従うだけ。なのに、全体としては波が左右に走って、壁で跳ね返る。誰も「波になれ」とは言っていないのに、 の集まりが自然に波として振る舞う。
② 玉を増やすと、波動方程式が出てくる
なぜ波になるのか。玉の間隔を として、 番目の玉の位置を とみなそう。さっきの右辺 は、数値計算でおなじみの 二階微分の近似 そのものだ:
ここでいう「玉を増やす」は、正確には 玉の間隔 をどんどん小さくする こと。すると差分 が微分 に化ける。これ、数値計算でおなじみの 有限差分(微分を、とびとびの引き算で近似する手)を、ちょうど逆向きに辿っているんだ。
これを運動方程式に入れると、
玉を細かくしていく(、)と、つぶつぶの鎖は なめらかな1本のひも になり、この式が残る。これは ── 前にやった 波動方程式 と、まったく同じ形だ:
が波の速さ。張った弦で言えば ( は張力、 は線密度)── 同じ形だ。「波動」という分野は、ばねと玉という純・力学から、二階微分を一つ経由しただけで出てきた。鎖のデモで を増やすほど、つぶつぶの跳ね返りがなめらかな波に近づくのは、この極限を目で見ているんだよ。
③ 鎖の固有の揺れ = あの定在波
もう一つ、繋がる所がある。鎖を「弾く」のではなく、特別な形に整えて離すと、形を保ったまま、その場で上下に揺れるだけ の運動になる。これが鎖の 基準振動(ノーマルモード)。デモの「基準モード 1/2/3」がそれだ。
個の玉・両端固定だと、基準モードの形はきれいに決まっていて、第 モードは
これ、見覚えがあるはず ── 前編の定在波 で出てきた の並びと同じだ。第1モードは腹が1つ、第2モードは2つ、第3モードは3つ。固定端が節になり、半波長おきに腹が並ぶ。鎖の「固有の揺れ」と、波動の「定在波」は、同じものだった。
おまけに、その揺れの速さ(角振動数)は
で決まる。この式、ぱっと見は込み入っているけれど、言っていることは素朴だ。長い波( が小さく、鎖がゆったりうねる)では の近似が効いて ── これは理想のなめらかなひも()と、ぴったり一致する。ところが 短い波( が大きく、隣どうしが激しく上下する)になると、その近似がずれて、実際の は直線から 下に曲がっていく。この「波長によって進む速さが変わる」ことを 分散 と呼ぶ。
「つぶつぶの鎖」と「なめらかなひも」の違いは、まさにここに出る。素朴なモデルが、ちゃんと自分の使える限界まで正直に教えてくれる ── そこが、私は面白いと思う。
④ 縫い目は、地続きのしるし
ここまでで、力学()と波動(波動方程式)のあいだの縫い目を一本ほどいた。別々に見えていた二つは、根っこでは同じ一つのものだった ── ということだね。
そして ── ここからが、本当に驚くべきところだ ── まったく同じ波動方程式 が、まるで示し合わせたように、他の分野にも次々と顔を出す。
- 音:空気の圧力を、前の 声道の話 でやったとおり、同じ で動く。
- 光・電磁波:マクスウェルの方程式を整理すると、電場・磁場が同じ波動方程式に従う。光は電磁場の波。
- 量子:シュレーディンガー方程式も「波」の式で、粒子が波として広がる。
形が同じなら、起きることも同じ ── 進む波、定在波、共鳴、反射。だから一度どこかで波を掴むと、別の分野の波も「あ、これ知ってる」になる。分野の壁は、越えられない壁じゃなくて、地続きであることのしるしみたいなものだと、私は思う。
まとめ
- 玉をばねで繋いだ鎖の各玉に、ただ を立てる:。
- 玉を細かくする()と、右辺が二階微分になり、波動方程式 が出てくる。波は力学から生まれる。
- 鎖の 基準モード は、波動の 定在波 そのもの。長波長では理想のひもに一致し、短波長でずれる(分散)。
- 同じ波動方程式は、弦・音・光・量子に共通。分野の縫い目は、底が地続きだから引けるんだ。
力学のページ と 波動のページ、別々に読んできた2本が、ここで1本に繋がった。物理が分野に分かれているのは便利のためで、奥はちゃんと一つ ── そう思えると、章の切れ目が少し心地よくなると思う。